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Netflix、アマプラ、時々映画館 チョコをおともに見た映画の感想をBitter&Sweetに書いています。

映画レビュー『PLAN75』は令和の姥捨山。

ブルーリボン賞を受賞された倍賞千恵子さん主演映画『PLAN75』を見ました。

PLAN75

あらすじ

 夫に先立たれた角谷ミチは、高齢を理由に住み込みで働いていたホテルの仕事を解雇される。住むところも失いそうになったミチは政府が推奨している75歳以上安楽死サポートプログラム「PLAN75」に申し込む。PLAN75のコールセンターに勤務する成宮瑶子。ミチのサポートをしているうち、この制度に疑問を持ち始める。

作品データ/主要キャスト

倍賞千恵子/角谷ミチ

 夫に先立たれ一人暮らしの78歳。ホテルの客室清掃員。PLAN75に申し込む

磯村勇斗/岡部ヒロム

 市職員。PLAN75の申請業務担当

・たかお鷹/岡部幸夫

 ヒロムの叔父。PLAN75の申請にきてヒロムと再会する

河合優実/成宮瑶子

 PLAN75コールセンター業務担当。ミチの担当になる

・ステファニー・アリアン/マリア

 PLAN75の施設スタッフ。母国に病気の子供がいる

公開年:2022年/監督︰早川千絵 /脚本:早川千絵 /配給︰パピネット・ファントム・スタジオ 

解説

 75歳以上の高齢者に対して自分の生死の保障権を与え、サポートするPLAN75制度を通して、当事者や制度担当者の苦悩を描く。日本・フィリピン・フランス・カタール合作。第95回アカデミー賞外国語映画賞部門日本代表作ノミネート。ブルーリボン賞では監督賞、また主演の倍賞千恵子さんが最高齢での主演女優賞を受賞したことでも話題に。

*以下ネタバレしますので、未見の方はご注意ください。

『PLAN75』すごく違和感が残る

 ブルーリボン賞の発表を受けて、アマプラにあったので見てみることにしました。見る前に知っていたことは「75歳以上の高齢者の安楽死制度の映画」程度。わたしは、病気などで「先が見えない人に対して安楽死を認める制度」をめぐる物語なのだろう、と思って見始めました。

高齢者は要らないというPLAN75

 でも、違うんです。主人公のミチは独居の高齢者。ホテルで働いていたけど、特にミスを重ねたわけではないのに、高齢者を働かせるのはかわいそうだという市民からの苦情で仕事をクビになります。社宅なのか住み込みなのかはわからないけれど、仕事を失ったと同時に住処も失いそうになり、引っ越し先を探しに行くと、生活保護を受けるならあっせんできるが2年分の前金が必要と言われる。細々と働いて一括で払える余裕はないとなると、案内できる物件はないと追い払われる。仕事を探しに出ても、75歳以上ではヒットせず、選択肢は死しか残されていない。その状況で「PLAN75」で安心して死ねますよ、申し込んだ人には10万円差し上げます!とお得感をあおって推奨する。要は10万円でさっさと邪魔だからいなくなってくれと国を挙げての姥捨て事業。その事業を導入したとき、当事者や取り巻く人がどうなっていくのか?を描いている。

 しかもものすごく問題作だなと感じたのが、たった始まって5分足らずで、日本人は古くから国のために死にいくことを誉だと思っている、というような時代錯誤のナレーションが入ったこと。国のために喜んで死ぬ人なんて、戦時下の風潮ならまだしも、今の時代にいないでしょう。何を言っているのだと見始めたことを後悔したが、どういう最後になるのか見届けようと再生し続けた。

PLAN75スタッフの葛藤

 仕事を追われて、いよいよPLAN75に申し込んだミチ。コールセンターの瑤子は、PLAN75に申し込んだミチの話し相手として1回の通話で15分間話を聞き、ミチの心のよりどころとなる。規則を破って内緒でミチと会ってしまったことで、目の前の生き生きと話す高齢者が死ななければならない制度に違和感を覚え、葛藤する。

 淡々と申請業務としてこなしていたヒロムは、20年ぶりにあった叔父が申請に現れたことで自分の仕事の意味を改めて思い知らされる。時折様子を見に行き、最後の食事を共にした後施設へ送り届けたものの、最期ひとりでなくなった叔父を自分で火葬してやるために施設から奪いだす。専門施設で亡くなった人の亡骸は弔われるわけではなくて、火葬の後廃棄処理されているらしいと仕事の資料で知ってしまったから。
人としての葛藤を若い人が感じ取れるところは、日本はまだ腐っていないという気持ちになるが、PLAN75はPLAN65へ移行されそうな気配まで漂わせる終わり方に、ぞっとした。

 今の日本は75歳以上の高齢者を労わるより働かせて年金の受給時期を遅らせようとしている点は否めないし、実際、働かざる者生きるべからずのスタンスにも思える。だが、働ける高齢者でも75歳以上は不要と死を突きつけるような映画が賞を取ること自体が、日本のお先真っ暗を掲示しているような気がしてならない。

個人的にはもう二度と見たくないし、人に勧めようとも思いません。

▶こんな人におすすめ

  ・ 映画賞受賞作が見たい
  ・倍賞千恵子さんが好き
  ・高齢者社会の勉強をしている

★★